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東京地方裁判所 平成3年(特わ)598号 判決

本店所在地

東京都武蔵野市西久保一丁目四番一二号

羽田産業株式会社

右代表者代表取締役則竹朋信

本籍

東京都武蔵野市西久保二丁目三二八番地

住居

同都武蔵野市西久保一丁目四番一二号

会社役員

則竹朋信

昭和八年九月二〇日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官北原一夫、弁護人鈴木晴順各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人則竹朋信を懲役一年六月に、被告会社羽田産業株式会社を罰金一億円にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社羽田産業株式会社(以下、被告会社という。)は東京都武蔵野市西久保一丁目四番一二号に本店を置き、不動産の売買、斡旋、賃貸等を目的とする資本金三〇〇万円(昭和六〇年九月五日以前は資本金七五万円)の株式会社であり、被告人則竹朋信は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人則竹朋信は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六〇年八月一日から同六一年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九五八二万〇一二二円、課税土地譲渡利益金額が四二三二万六〇〇〇円(別紙一修正損益計算書のとおり。)であったのにかかわらず、同六一年九月三〇日、東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四二三三万二三一四円、課税土地譲渡利益金額が九八二万四〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一八九七万九八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四八六四万〇五〇〇円と右申告税額との差額二九六六万〇七〇〇円(別紙三の1脱税額計算書のとおり。)を免れ

第二  昭和六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億七五九三万四六四六円、課税土地譲渡利益金額が六億〇六三〇万四〇〇〇円(別紙二修正損益計算書のとおり。)であったのにかかわらず、同六二年九月三〇日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億一二五二万一八〇八円、課税土地譲渡利益金額が一億一六七五万円であり、これに対する法人税額が六九二四万七四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億六一七九万一七〇〇円と右申告税額との差額二億九二五四万四三〇〇円(別紙三の2脱税額計算書のとおり。)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人則竹朋信の当公判廷における供述

一  被告人則竹朋信の検察官に対する各供述調書(六通)

一  竹内春男、石田祐司の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の不動産売上高調査書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書(甲六)

一  大蔵事務官作成の期末棚卸高調査書

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書

一  大蔵事務官作成の事務用品費調査書

一  大蔵事務官作成の保険料調査書

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書

一  大蔵事務官作成の旅費交通費調査書

一  大蔵事務官作成の通信費調査書

一  大蔵事務官作成の交際費調査書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書(甲二〇)

一  大蔵事務官作成の諸会費調査書

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書

一  大蔵事務官作成の雑費調査書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書

一  大蔵事務官作成の家賃収入調査書

一  大蔵事務官作成の損金の額に算入した附帯税調査書

一  大蔵事務官作成の交際費の損金不算入調査書

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書

一  大蔵事務官作成の土地の譲渡等に係る譲渡利益額調査書

一  大蔵事務官作成の査察官報告書

一  武蔵野税務署長作成の証拠品提出書

一  登記官作成の登記簿謄本(四通)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(平成三年押第四七三号の1)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の受取手数料調査書

一  大蔵事務官作成の商品売上高調査書

一  大蔵事務官作成の期首棚卸高調査書

一  大蔵事務官作成の不動産仕入高調査書

一  大蔵事務官作成の商品仕入高調査書

一  大蔵事務官作成の給料手当調査書

一  大蔵事務官作成の地代家賃調査書

一  大蔵事務官作成の新聞図書費調査書

一  大蔵事務官作成の寄付金調査書

一  大蔵事務官作成のディリー経費調査書

一  大蔵事務官作成の損金の額に算入した法人税調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

(法令の適用)

被告人則竹朋信の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に、被告人則竹朋信の判示各所為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから被告会社につきいずれも同法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、被告人則竹朋信につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告会社に対しいずれも情状により一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人則竹朋信につき同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、被告会社につき同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算することとし、被告人則竹朋信に対し加重した刑期の、被告会社に対し合算した金額の各範囲内で被告人則竹朋信を懲役一年六月に処し、被告会社を罰金一億円に処することとする。

(量刑の理由)

被告会社は昭和五〇年ころから不動産業に進出し、同五九年ころからの地価高騰に伴い、いわゆる土地転がしを行うようになったが、短期の土地譲渡益には通常の法人税のほか投機的土地取引の抑制等を目的とする土地重課が適用され、所得の約七割を法人税として納付しなければならなくなると考え、この際所得を秘匿し、資金留保、或は不動産取引の裏金資金にしようと企て、〈1〉不動産の売上除外、〈2〉仲介手数料の架空計上(昭和六一年七月期)、〈3〉商品売上除外(同六二年七月期)、〈4〉期末棚卸高の除外、〈5〉家賃収入除外を行ったものである。

すなわち、昭和六一年七月期には昭和六一年三月二五日に仕入れた三鷹市下連雀四丁目一五一番地五四の宅地建物(土地面積実測七七・九四平方メートル)を同日五三〇〇万円で株式会社三成商事に売却することにより一〇〇〇万円の利益が上がることから被告会社従業員石田祐司をダミーとして介在させて七〇〇万円の売上を除外し、又同六〇年一二月七日に仕入れた練馬区関町東一丁目甲四〇番の一一、一九の宅地建物(土地面積実測一一三・〇三平方メートル)を同六一年五月一三日八一〇〇万円で秋元きみよに売却したが、被告会社の融資先で事実上倒産状態になっている三徳企業株式会社の代表取締役竹内春男から受領した同社の代表取締役印を利用して同社をダミーとして介在させて一四一五万八四〇〇円の売上を除外し、更に同六一年二月一七日仕入れた三鷹市下連雀三丁目一六五番一一の宅地及び店舗兼居宅(土地面積公簿一一二・八九平方メートル)を同年五月三〇日七三一〇万円で株式会社タイコウに売却したが、ダミーとして前記三徳企業を介在させ、八一〇万円の売上を除外した他、武蔵野市御殿山の物件の仲介について前記三徳企業及び星山秀只が仲介等に関与したように装って前記三徳企業名義の一〇〇〇万円及び五〇〇万円の架空領収書及び前記星野名義の一〇〇〇万円の架空領収書を作成し、仲介手数料二五〇〇万円を架空計上すると共に武蔵野市において経営するテーラー羽田洋品店の期末棚卸高及び被告人の長男に賃貸した家賃収入を除外するなどし、次いで昭和六二年七月期には昭和六一年六月二五日仕入れた青梅市東青梅三丁目二三番一〇、一一、一四の宅地(実測八〇四・四九平方メートル)を同年八月一九日四億三八〇〇万円で日本住産株式会社に売却したが、前記三徳企業をダミーとして介在させて四八〇〇万円の売上を除外し、又昭和六一年七月一日仕入れた八王子市館町六三八番二、四、五、六四〇番一、六四一番一、四の雑種地・宅地(実測一七五二・〇七平方メートル)を同六二年二月二八日九億〇一〇〇万円で有限会社技研管財に売却したが、前記三徳企業をダミーとして介在させて三億七六〇〇万円の売上を除外し、更に昭和六一年一〇月七日仕入れた東京都西多摩郡羽村町羽字羽ケ上二一三九番地畑(実測六八四・二〇平方メートル)を同六二年三月三日三億六〇一二万円で大日成建設株式会社に売却したが、前記三徳企業をダミーとして介在させて七八六二万円の売上を除外した他、前記テーラー羽田洋品店の洋品売上約一八四万円の売上除外及び前同様期末棚卸高、家賃収入を除外するなどして所得を秘匿し、昭和六一年七月期において脱税率六〇・九パーセント、昭和六二年七月期において同八〇・八パーセント、通算脱税率約七八・五パーセントで合計約三億二二二〇万円を脱税したものである。右によれば、脱税率も相当高いうえ脱税金額自体において一般勤労者の生涯賃金に匹敵する金額を脱税したもので、一般国民の申告納税制度に対する信頼感を損なわしめるものであり、我が国の税制基盤を揺るがしかねない所為というべきであって受けるべき非難は大きいというべきである。しかも目的々な土地重課制度を免れようとした点においては、国により定められた政策を単純な自己の利欲のために没却せしめるものであって、看過できないものがある。加えて、相当の資産を有しているにもかかわらず、平成三年九月一七日現在おいて昭和六一年分の本税三一二四万五九〇〇円、加算税九万七〇〇〇円、延滞税四〇万五五〇〇円、昭和六二年分の本税五五九八万七二〇〇円、延滞税一六万八〇〇〇円を納付したのみでその余の本税、加算税、延滞税を納付することなく、今後の土地の高騰を願い、或は今後得られるものと目算する手数料収入に期待を寄せて、現有財産を処分することなく、税金を滞納し続けているのである。

なお、弁護人は、本件脱税は地権者らからの裏金の要求に応じなければ、取引ができないなどのこともあり、簿外資金としたもので、被告人が私益を図った目的の所為ではない旨の情状を述べるが、被告人が全株式を保有する被告会社の利益は潜在的には被告人に帰属しているものともいえるのであるから、被告会社の利潤追求のために脱税による簿外資金を投下したとしても、それは被告人個人の利益追求を目的としたものとさほど変わりなく、被告人にとって格別有利な情状とは認められないのである。

以上によれば被告人の受けるべき刑責は重いというべきである。

他方、被告人は当公判廷において反省の情を披瀝し、二度と脱税しない旨誓約していること。平成元年八月脳梗塞を生じて以来健康に勝れないこと。従前なんらの前科前歴もないことなど酌むべき事情も存する。 以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、刑の選択及び量定をし、被告人には実刑に処するほかはないと思料した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(求刑・被告人則竹朋信に対し懲役二年、被告会社に対し罰金一億円)

(裁判官 伊東正髙)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3

脱税額計算書

会社名 羽田産業 株式会社

1 自 昭和60年8月1日

至 昭和61年7月31日

〈省略〉

2 自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

〈省略〉

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